TB MOOC

パスツール研究所が結核に関するオンライン講座を無料で提供していて、それを聴講している。FUN MOOCというウェブサイトのPasteur Tuberculosisという授業だ。講義は英語もしくはフランス語で聴くことができ、スライドも英語もしくはフランス語でダウンロードすることができる。この結核の講義はChapter1-Chapter6 + additional clinical chapterという構成である。1つのChapterはおおよそ5つ程度のビデオから構成され、一つのビデオはおよそ10分程度と見やすい。それぞれのChapterの後に簡単な確認テストが用意されている。全て無料で受講することができるが、有料のサービスとして内容に関するオンラインテストを受けて合格すると卒業証明書を受け取れる。結核の研究分野は非常に混乱している印象を受けるので、どの論文を参照するのかや立場をとるかで大きく見解が異なるという現象が起こる。そのため必ずしも全て正しい内容として鵜呑みにするのは危ないと思うが、それでもChapter1-6まで見終わってみると結構勉強になった。特に僕の場合、結核に関する基礎研究の内容は論文を読むことで学ぶことが多いが、医療に関わる部分はこれまでほとんど学ぶ機会がなかったので、こういった形で体系的にフィールドをざっと見渡せるような機会はありがたい。

有料サービスを利用して卒業証書を取得するかどうかは悩んでいる。あまり安くはないのだが、僕は医学部出身ではなく博士号を異なる分野で取得したため、この分野を学んできた証明がない。今のラボでしっかりした論文を書くのが最も大事なことなのだが、日本社会のシステムではそれで認められるのか少し不安に思う。


面倒を見ている学部生の卒業研究が大詰めである。先週で実験はもう終わりにさせて、発表の準備に専念するように伝えた。来週に15分ほどのプレゼンテーションをするということで、金曜日にはそのスライド作りを手伝い、今週からは今月半ばに締め切りの卒業論文に赤を入れる作業を少しずつ進めている。

流石に世界有数の大学の学部生というだけあって論文もある程度読めるしよく勉強して頭も切れる。しかし、この卒業研究のプログラムに関してはあまり良いプログラムではない。僕が日本の大学で学部生をやっていたときは、学部四年生の一年間を丸々卒業研究に充てることができた。授業もなく、卒業研究に没頭することができた。しかし、この大学の卒業研究プログラムは(長いホリデー期間を含む)4ヶ月程度と短く、しかも学生は毎日のように授業に参加しなければならず、あまり研究に集中できない。授業が5時などにあるとあっという間に一日が終わってしまうし、この国の学部生が休日や夜、ホリデー期間にラボに来て実験をすることはなどまず考えられない。必然的に、日本の標準的な学部生よりも圧倒的に少ない量の実地経験で卒業することになる。しかも、僕は今回メンターとして学部生の面倒をみてきたが、「うまくいくことがわかっていること」をやらせてくれ、という訳のわからない指示を受けた。当該の学部生曰く、多くの学部生がただ遺伝子をいくつかクローニングしたりしそれを卒業研究として発表するということで、彼は上手くいくのかわからないことをやらせて欲しいと頼んできた。相談してより挑戦的な内容にしたのだが、そうすると当然時間が圧倒的に足りず、どの実験もトラブルシュートの途中で終わるような形になってしまい、僕も少し反省するところだ。もし次回があるならば(あっても困ってしまうのだが)もう少し成功体験を得られるような良い塩梅のプロジェクトを与えられると良いのだがと思う。今回青天の霹靂的にこの仕事が降ってきた結果、世界有数の大学といえどこんなにいい加減な卒業研究プログラムなんだなと知ることができた。また、彼も非常に優秀ではあるものの、やはり研究の現場ではまだ「学部生」という印象だ。これから博士課程でみっちりトレーニングを受けることになるだろう。

ということで、あと二週間ほどでこの大役からも解放させる。あと少し!まさか世界有数の大学で学部生の卒業研究を指導することになるとは思ってもいなかった。


今週はなかなか心に堪えることがラボ内で生じたのだが、なんとかやり過ごし週末を迎えることができた。僕自身に落ち度は無いし、完全にとばっちりを受けているだけなのだが、空気の悪い人間関係に巻き込まれた挙句僕自身の美徳や理想を危うく否定されそうになり、仕方なく礼儀正しく戦うしかなかった。その場はなんとか収まり、却ってそれぞれの相手との信頼関係は強固になったような気もするのだが、それぞれの相手同士の溝は全く埋まっておらず、空気の悪い人間関係にこれからも関わり続けないといけないと思うと非常に憂鬱である。知り合いのポスドクが言うように、この世界で生き残るには大きさや形の異なる数々の網目を潜り抜けなければならない、と思う。ただし、こういった様々な事象に出会うことこそ「外」に出ることの醍醐味であり、こういった経験を積むことで心や対人のスキルが鍛えられていくのだと信じたい。

今週も数回プールで泳ぎ、ラボまで走って通勤する日を設け、そしてストア哲学の本を読みながら、心と身体の健康を保って研究活動をすることができた。

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